リアル脱出ゲーム

プロローグ:Escape or Be Tortured

私の名前は碧(みどり)、都内の会社で働くOL。今年で25歳になる。

最近、リアル脱出ゲームにはまっている。単調な仕事と違って、謎解きの緊張感と脱出したときの解放感がたまらないのだ。ただ、いくつもの施設で遊ぶうちに、その脱出ゲームもマンネリに感じるようになってきてしまった。

そんな中、私の脱出ゲーム好きを知っている同僚の麻友がインターネット上でおもしろいリアル脱出ゲームがあると教えてくれた。『Escape or Be Tortured』、日本語にすると『脱出か、さもなくば拷問か』、私はこの少々過激なタイトルにひさしぶりに胸の高鳴りを憶えていた。教えてもらったウェブサイトにアクセスしたところ、どうやら会員制のサイトらしく、会員になるには仮登録をし、審査を兼ねたリアル脱出ゲームをクリアする必要があるようだ。登録費・会費無料と書かれていたので、私は深く考えることなく仮登録を済ませた。

第1話:適正審査

仮登録を済ませると、一通のメッセージが届いた。

佐藤 碧さま

このたびは Escape Game『Escape or Be Tortured』 に仮登録いただきありがとうございます。
お客様の登録情報 本サイトは、ゲーム内容などの秘密保持のため、会員制とさせていただいております。また、よりスリルあふれるリアル脱出ゲームをお客様に体験していただくために、審査用のゲームを通じて、あらかじめお客様の適性を審査させていただきます。

審査用のゲームはご自宅と屋外で行っていただきます。ご登録いただいた住所にゲームに必要な道具およびゲーム内容を送付しますので、そちらの指示に従って審査用ゲームを本日より2週間以内に実行してください。なお、ゲーム内容の秘密保持のため、こちらからの送付物は本人限定受取で送付しますので、代理人の受け取りはできません。

万が一、審査用ゲームを実行していただけない場合は、道具を返却(送料はご登録者様負担)いただいた上で、道具送付手数料5,000円をお支払いいただきますので、ご注意ください。審査用ゲームを実行していただけた場合、道具の返却の送料は事務局で負担いたします。

Escape Game『Escape or Be Tortured』事務局

(ふーん、自宅で脱出ゲームってどんな内容なんだろう?それに、登録費無料なのに道具を貸し出してくれるんだ・・・)と思いながら、審査に合格できるのか、ドキドキしながらベッドに向かった。

2日後、仕事から帰るとポストにEscape Game事務局からの荷物の不在通知が。一刻でも早く受け取りたい気持ちで翌日の土曜日の午前中に再配達の依頼をした。翌日の朝、インターホンが鳴るとそこには郵便局の配達員が段ボール箱を抱えていた。はやる気持ちを抑えながら、本人確認を済ませ、冷静を装いながらEscape Game事務局からの荷物を受け取った。

(何が入っているんだろう・・・?)荷物を受け取ると重量感がある。(脱出ゲームって言うことはやっぱりどこかに閉じ込められたり拘束されたりするのだろうか?それとも審査は脱出とは無関係に謎解きをするだけなのだろうか?)などということを考えながら、段ボール箱を開けるとそこには、スマートフォン、拘束具のようなもの、A4の紙が1枚入っている。他にも何か入っているようだが、まずは紙を取り出した。そこには以下のように同梱物一覧とゲーム内容が書かれていた。

下記の同梱物が正しく揃っていることを確認し、下記の署名欄に確認日を記入の上署名をして下さい。万が一不足している場合は、直ちにWebサイトよりEscape Game事務局にご連絡下さい。
  年  月  日
署名 :        
ストーリー:あなたは囚われたお姫様です。ある日、ドレスを着てパーティに参加しているときに誘拐されてしまいました。気がついたときには両手は手枷で拘束され、口には口枷がはめられていています。口枷も南京錠で鍵が掛けられています。周りを見渡しましたが誘拐犯は近くにはいない様子です。
手枷と口枷の鍵は誘拐犯がどこかに隠してしまったようです。謎解きをしながら鍵を探して拘束からの解放を目指しましょう。

(え、なにこれ!?)ミディアムドレスはシャンパンゴールドのAラインワンピースタイプのパーティドレスで、街中ですれ違ったら思わず振り返ってしまう素敵なデザインだ。ドレスの下の箱に入っていたハイヒールは、ドレスに合う白いピンヒール。ヒールの高さは普段私が履いているパンプスよりもずっと高くて、10cmを超えていそうだった。ただ、ドレスと同梱されていたのは、その清廉さとは似つかない手枷と口枷だった。手枷は普通の手錠ではなく、初めて見る形のもので使い方がわからない。口枷は真ん中にリングが2つ付いていて、ベルトで固定するものらしい。

指示書の内容は次のように続いていた。

まず、スマートフォンから『Escape or Be Tortured』アプリを開きます。本リアル脱出ゲームではこのアプリを使ってゲームを進めていきます。正しくアプリが開けたら、アプリに表示されている「適正審査開始」ボタンをタップして下さい。以降は、アプリの指示に従ってください。

アプリを開き「適性審査開始」のボタンをタップすると、そこには次のような指示が書かれていた。

「次へ」のボタンを押すとカメラが起動するので、先ほど記入した署名欄を撮影してください。

指示に従い、署名欄を撮影すると、続けて次の指示が表示された。

それでは、適性審査の脱出ゲームを開始します。同梱のミディアムドレスを着てください。またチョーカーを装着してください。次に、口枷を付け、南京錠で鍵をかけてください。口枷はゆるいと顎に負担がかかってしまうため、ベルトはきつめにしっかりと装着すること。口枷を装着したら、本アプリで自撮りをしてください。

ミディアムドレスを着て鏡で自分の姿を見ると、普段の自分とは違った大人の女性に見えた。チョーカーは金属製で前に大きなサテンのリボンが付いている。チョーカーの留め金を首の後ろで留めた。いよいよ囚われのお姫様になるべく、口枷を装着しなければならない。自分で拘束を施すことにドキドキしながら口枷を装着した。試しに声を出してみると、はっきりとはしないものの意外と声が出ることに驚いた。ただ、南京錠をかけることにはさすがに不安を感じたので、南京錠をかけずに自撮りをしたところ、

!警告!
口枷の南京錠を検出できませんでした。アプリの指示に従ってください。今後アプリの指示に背いた場合は罰を与えます。

と表示された。どうやら南京錠とアプリが連携しているようだ。でも、まだ南京錠をかけることに抵抗があったので、口枷にかけなくても南京錠を閉めればきっと鍵をかけたと検出してくれるだろうと思い、南京錠を閉めてあらためて自撮りをした。

!警告!
南京錠が口枷に正しくかかっていません。南京錠を解放したので、正しくかけてください。また、警告したにも関わらず指示に従わなかった罰として、これ以降のゲームはサテングローブを着用して行いなさい。なお、サテングローブを着用するとスマートフォンの操作ができなくなるため、これ以降はタイマーにより自動で指示を出します。時間以内に指示に従えなかった場合は失格となります。

失格という言葉を聞き、ゲームに負けるのは悔しいという気持ちになり、私はサテングローブを着用して、口枷に南京錠をかけた。するとアプリの画面には、

口枷の上からマスクを付けて、口枷が外から見えないようにしてください。また、同梱したハイヒールを履いてください。

そして、最後に、後ろ手に手枷をはめます。このあと表示される動画に従ってください。

マスクをして、玄関に行き、ピンヒールを履くと、背の高くない私でもスタイルがよく見える。10cm以上のヒールの上で私の体は不安定になっていたが、足首についているストラップのおかげで歩けないほどではなかった。

そして、動画に従い、8の字型の手枷を開いて自らの手を後ろ手に拘束した。カチャリ、という音をたてたあとは、手を動かしてもびくりともせず、私の手を頑丈に拘束してしまった。あとで知ったのだが、これはアイリッシュエイトという手錠らしい。

Escape Gameの始まりです。