リアル脱出ゲーム

第3話:口枷からの解放

手錠が外れたことで、拘束感が一気に減った。(あとは口枷を外すだけだ。)そう思ってアプリを見ると

犯人の到着まで「58秒」です。犯人到着までに家を出ないと失格になります。

とカウントダウンしていくのが見えた。すぐに家の鍵と財布とスマートフォンを持って部屋を出た。マスクで気づかれないだろうとは思っても、近所の人に声をかけられたらばれてしまうので、マンションを出て近所の公園に向かった。公園のトイレに入り、アプリを確認すると

おめでとうございます。犯人到着前に脱出できたようですね。次は口枷の鍵を外しましょう。

口枷の鍵は8桁の暗証番号で解除できます。3回間違えるとロックがかかり、犯人の持っている鍵でしか開けられなくなります。暗証番号はあなたに口枷をはめるときに犯人がセットしていました。犯人がセットした数字は「18188957」です。

と表示されていた。

(え、答え書いてあるじゃん。)と何か物足りなさを感じた次の瞬間、画面には

音声で暗証番号を入力してください。

と表示された。(そうか、犯人が暗証番号の数字を易々と残したのは口枷をしたままだと暗証番号を入力できないからか!)とこのゲームの意図を理解した。(どうやって音声入力をすればいいんだろう?)と思ったが、口枷をしていても意外と声が出せることを思い出し、試しに入力を試してみた。(えっと、18188957、だよね。)スマートフォンの画面には、******** と入力されていき、(これで脱出かな?運営の人甘いなぁ)と考えていたら、画面に

暗証番号が違います。あと2回間違えるとロックがかかります。

と表示された。(え、なんで?)と思いもう一度入力をしてみたところ ******* と7桁だけ入力されたことで、(もしかして口枷のせいで数字が間違って認識されているの?)と気がついた。この声が出せる口枷も犯人の罠だったかもしれない。よく考えれば1や8はこの口枷をしていると判別できないのだ。すでに7桁入力してしまったが、この音声入力は入力の削除ができない。仕方がないのでしばらく待っていると、

暗証番号が違います。あと1回間違えるとロックがかかります。

と表示されてしまった。(7桁しか入力していないのに入力されたことになっちゃうの?)と驚いたと同時に、あと1回しかチャンスがないことに恐怖していた。(何とか正しく音声入力をする方法を考えないと)と思っていると、ふと(自分の声じゃなくてもいいなら別のスマートフォンに読み上げさせればいいんじゃないか)という考えが浮かんだ。そこで、一度自宅に帰って自分のスマートフォンを取りに行こうとマンションの入り口まで来ると、脱出ゲーム用のスマートフォンから音が鳴り、

まだ部屋には犯人がいるようです。見つからないうちに逃げてください。

と画面に表示されていた。(部屋に戻れないのかぁ。)と思いながら、部屋を脱出するときに自分のスマートフォンを持ってこなかったことを後悔した。

数字を読み上げてくれる場所を必死で探した。数分の間考えて思い出したのは、ポイントカードの電話自動受付だった。(前にポイントの確認をするために電話したときに、会員番号を入力したら、お客様の会員番号は、って読み上げてくれたよね。)と思い、早速それを試そうと、駅前の公衆電話に向かった。駅前までこの格好で行くのは恥ずかしかったが、いまどき公衆電話がある場所も多くなく、私の知る限りでは駅の近くしかないのだ。

公衆電話に入ると、財布からポイントカードを取り出し、電話受付の番号に電話をかけた。すると、電話自動受付で会員番号を尋ねてきたので、正確に18188957と入力して、受話器をスマートフォンのマイクに当てた。(これで無事脱出できる)と思った矢先、なんと駅前で政治家が大きな声で演説をし始めた。すると、スマートフォンから警告音が鳴り出した。慌てて画面を見ると、

暗証番号が違います。暗証番号機能はロックされました。ロックを解除するにはマスターキーを使用してください。

と表示されていた。演説の大きな声で入力が邪魔をされたのは明らかだった。

(つづく)